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★黄色に染めた「絶対に行ってはいけない通り」　住民らが込めた思い

※写真　路面が黄色に塗装され、水族館のようなイラストもあしらわれた市道＝大阪市北区で2024年12月10日午後1時45分、小坂春乃撮影
http://cdn.mainichi.jp

　大阪・梅田の歓楽街に、売春目的の女性や女性を目当てにした男性が集まる細道がある。
　近隣住民らが「絶対に行ってはいけない」とささやく通りだ。

　この場所の環境を変えようと、住民や警察が立ち上がった。
ノーベル賞学者の理論に着想を得た試みが実を結びつつあり、売春を思いとどまらせるための活動も始まっている。

　飲食店や風俗店が集まる大阪市北区の歓楽街・兎我野町近く。
若者や外国人観光客でにぎわう表通りから入った場所に、長さ100メートルほどの市道がある。

　両脇にホテルやビルが建ち並んで人目につきにくく、以前は訪れる男女の姿が絶えなかった。
近所の住民の中には「絶対に行ってはいけない」と子どもに言い聞かせる家庭もあるという。

●「売春スポット」SNSで有名に

※黄色い塗料で塗装されていく市道＝大阪市北区で2024年12月3日午前10時50分、小坂春乃撮影
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　大阪府警によると、この通りには2022年ごろから売春目的とみられる女性が集まり始めた。
いつしかSNS（交流サイト）などで「売春スポット」として知られるようになった。

　府警は24年11月末までの1年あまりに、売春防止法違反（客待ち）容疑で30人を逮捕・書類送検。
通りを管轄する曽根崎署はパトロールの頻度を増やしたり、住民の協力で「客待ちは違法」などと
書かれたポスターを張ったりしてきた。しかし、目立った効果がなかった。

　府警と大阪市、地域住民は24年夏以降、専門家の意見も聞きながら対策を練る会議を開いてきた。
　その会議で決まったのが「ナッジ理論」と呼ばれる、行動経済学に基づく対策だった。

　ナッジは英語で「軽くつつく、行動をそっと後押しする」という意味がある。
ノーベル経済学賞を受賞した米経済学者、リチャード・セイラー氏が提唱。
人の行動を分析し、改善を促すことを目的とした理論だ。

　取り組みに協力した警察庁の付属機関「科学警察研究所」の島田貴仁・犯罪予防研究室長（現・滋賀大教授）によると、
高い建物に囲まれるなどした狭い空間は、人は長時間いてもストレスを感じにくいのだという。その上でこう指摘する。

　「問題になっている通りも、まるで隠れ家のよう。周囲の目を気にせずに客待ちができてしまう環境だ」

●ノーベル理論で黄色に塗装


　こうした分析を参考に、府警などは通りのアスファルトを黄色に塗装することにした。
黄色は「注意」や「警告」といった印象を与えることから、
路面をこの色にすることで男女がとどまりにくいようにしたのだ。

　さらに通りの出口に向かって魚が泳ぐ10枚の連作イラストを近くの専門学校生に制作してもらい、路面に設置した。
歩みを進めたくなるような雰囲気をつくるのが狙いで、水族館のようなデザインは住民にも好評だ。

　塗装やイラストの設置は24年12月に終えた。
曽根崎署は効果を検証するため、私服警察官による見回りを1日に4回、1週間にわたって実施。
塗装前の24年11月は1回当たり平均7・43人がとどまっていたが、
塗装後の25年2月は平均0・86人に減少した。

　島田教授によると、ナッジ理論を活用した売春対策は世界でも例がなく、
画期的な取り組みと評価する。

　地域で防犯活動に取り組む藤野雅文さん（79）は「誰でも通りやすく、
『明るくなったね』と地域でも話題になっている」と喜ぶ。
府警は今後も見回りを続け、塗装などの効果が持続するか確かめる。

　一方、通りから女性らを追い出すだけでは新たな「客待ちスポット」が
別の場所にでき、摘発する側とのいたちごっこが続くだけとの指摘もある。

　府警や地域住民らの会議の中で、女性が売春せざるを得ない
事情にも目を向けるべきだとの意見があった。（続く）

毎日新聞 2025/4/30 14:00（最終更新 4/30 14:39） http://mainichi.jp

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