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★ガザ停戦合意、残るもろさ　要衝めぐり崩壊する危険性も　鈴木啓之氏

聞き手・友田雄大2025年1月17日 5時00分

　パレスチナ自治区ガザで戦闘を続けてきたイスラエルとイスラム組織ハマスが15日、停戦と段階的な人質解放に合意した。
繰り返し頓挫した停戦交渉が、いま合意に至った背景は。今回こそは恒久的な停戦に結びつくのか。
鈴木啓之・東大特任准教授（中東政治）に聞いた。

　このタイミングで妥結に至ったのは、（紛争当事者や関係国が）トランプ氏が米大統領に就任する前に
停戦にむけた成果を出したかったことに加え、イスラエル、ハマス双方をとりまく状況が大きく変わったことがある。

　ハマスは、ガザでの戦闘で連帯していたレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラがイスラエルとの戦闘で
打撃を受けたうえで停戦し、同盟者が一つ減った。さらに、イランからヒズボラへの補給路となっていた
シリアのアサド政権崩壊も重なって、ハマスは自分たちだけでイスラエルと対峙（たいじ）せざるをえなくなってしまった。
冬を迎え、ガザの住民から停戦を求める圧力も相当高まっていたようだ。
それらを背景に、人質の解放を条件とした停戦に踏み切ったのだろう。

●軍の撤退定めた第2段階がポイントに

　ただ、現段階ではもろい停戦だと評価している。停戦の第1段階は解放される人質の人数など詳細まで
詰められているようで、多少の進展があると期待している。決められたとおりに人質の解放がされるのかどうかが注目される点だ。
一方、イスラエル軍のガザからの撤退が定められている第2段階は、最も注目すべきポイントで、
一番崩壊の危険性がある。第1段階が進行していく中で協議するとされているが、
詳細が十分に詰められなければ、容易に崩れてしまう。

　ハマスにとってはガザにイスラエルが残ることは受け入れがたい。
現段階ではイスラエル側が、ガザの要衝である中部のネツァリム回廊と
南部のフィラデルフィ回廊を完全に手放すかどうかが明確ではない。

　イスラエルは二つの回廊を使ってガザを管理すると公言したことがある。
つまり、第2段階の交渉は第1段階より難しい。それを先送りしているということは、現在合意できていないことの裏返しだ。

　それが果たして、第1段階が始まったあとの交渉で妥結できるのか。
お互いが譲れないポイントを先送りし、
結局妥結できず、戦闘が再開されるという歴史がまた繰り返される懸念はぬぐえない。

●繰り返された｢棚上げ｣

　今回のガザでの戦闘は、パレスチナをめぐる問題の棚上げで事態の進捗（しんちょく）をはかる、
今までの取り組みの破綻（はたん）だったと位置づけられる。
ずっと課題としてあった問題にふたをして、イスラエルとアラブ諸国の関係正常化や、
中東地域でのビジネスは行われてきていた。
しかし、さまざまな矛盾や課題を封じ込め続けることはできず、ガザでの戦闘が起き、
それがレバノンやイランなどに広く波及してしまった。

　パレスチナ自治区にパレスチナ人の独立国家をつくりイスラエルと共存する
「2国家解決」を強力に推し進めるのか、それとも、ふたたびこの問題にふたをして
次の戦闘が起きるまでの時間を過ごすのか。いま、そうした点が問われている。

朝日新聞デジタル　http://digital.asahi.com