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★島根でも難しい業界頼みの選挙　「社長の一声の時代は終わっている」

森岡航平 小木雄太2024年4月29日 8時00分

　裏金と教団問題以外にも、自民党の基盤を溶かしているものがある。

　島根1区補選の投票が3日後に迫った25日朝。松江市内の建設会社前に、
会社名が記された作業服をまとった従業員ら100人以上が集まっていた。

　「自民の不祥事があって、補選は全国で注目されている。ご協力をお願いしたい」

　自民党員の建設会社の社長（52）は従業員に呼びかけた。
横に並んだ自民の新顔候補は、公共事業の確保に取り組むことを誓ってみせた。

　公共事業に絡む建設業界は、伝統的な党の支持団体でも最も重要な一つだ。
裏金事件の逆風で無党派層の支持は得られないとみた自民は、今回の補選で、
こうした業界団体の稼働に力を入れた。高い支持率を誇った小泉純一郎が首相時代に
「無党派は宝の山だ」と語った選挙戦略とは裏腹の旧来型への回帰と言える。

　25日午後、国宝・松江城にほど近い県商工会館。
自民幹事長の茂木敏充は、県内の企業経営者ら約80人を前に
「選挙にマジックはない。一人一人の活動の積み重ねが勝利につながる」と支援を求めた。

　関係者によると茂木は同日、自動車部品メーカーなど各企業を訪ね、支援の依頼に時間を割いた。
裏金事件で有権者のまなざしは厳しく、表立った街頭演説より水面下の活動を優先させた形だ。

　しかし、こうした業界団体に頼る選挙手法は、過渡期に差し掛かりつつある。
建設会社に勤務する男性従業員（22）は「仕事の一環」として集会に出席し、
自民候補と握手したが、「投票には行かない。行ったところで何も変わらない」と語る。
社会構造の変化に伴う公共事業の減少傾向は誰の目からも明らかだ。
経営者は政治との結びつきによるメリットを感じられるかもしれないが、
一般の従業員には給与アップなど具体的な形では還元されてこなかった。
政治の恩恵はとうてい、感じられない。

　一方、業界や企業丸抱えの自民型の選挙のあり方に限界を感じている経営者も少なくない。
松江市内の別の建設会社の社長（59）は「今の時代に従業員の『動員』は困難。
票読みはできない」と頭を抱える。

　全国郵便局長会、医師会、農協……。自民党は参院選の全国比例で、
業界団体の「組織内候補」を今でも積極的に擁立している。
自民党の比例票の積み上げになる塊が見込めるからだ。
業界団体にとっても自分たちの代表者を国会に送り込み、組織の意向を政策に反映できる。
政権与党で居続ける自民だからこそ享受できる、業界団体との相互利益の関係があった。

　こうした従来の関係性だけでは、組織に属する個々のメンバーの投票行動を
縛りつけることはできなくなりつつある。それは島根のような自民王国でさえ例外ではない。
島根1区補選に臨んだ複数の関係者は身にしみて感じている。県建設業協会の幹部は言う。
「人それぞれの価値観が多様化している現代で、
社長の一声で『自民』となる時代はもう終わっている」=敬称略（森岡航平、小木雄太）

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